海外留学助成 中間近況報告
2024年度留学助成(2025年 中間近況報告)
【留学先研究機関】
Biozentrum, University of Basel
2024年6月より、スイス・バーゼル大学BiozentrumのMarkus Rüegg教授の研究室に留学しております。
バーゼル大学は1460年に創設されたスイス最古の大学であり、卒業生には数学者オイラー、心理学者ユングなどの著名人が名を連ね、またパラケルススやベルヌーイや、ニーチェらが教鞭をとった歴史ある名門大学です。
Rüegg研究室があるBiozentrumは1971年にバーゼル大学内に設立された分子生物学および生物医学の基礎研究施設で、2021年からは地上16階・地下3階建ての最新の研究棟に移転し、現在では31の研究グループが多様なテーマに取り組んでいます。

私が所属するRüegg研究室は骨格筋を中心とした研究を行っており、中でも特に骨格筋の老化(サルコペニア)や神経筋疾患に焦点を当てており、継続的に質の高い論文が発表されています。中でも私が特に興味を持ったのは、タンパク質合成の主要経路であるmTORC1シグナリングが、サルコペニア状態にある骨格筋ではむしろ活性化しており、ラパマイシンによるmTORC1の長期的な抑制がサルコペニアの進行を効果的に抑えるという報告です(Ham et al., Nat Commun. 2020)。元々食事や運動といった環境因子がどのような分子機構を介して表現型に影響を与えるかに関心があり、現在は栄養条件がmTORC1シグナリングをどのように影響し、サルコペニアの発症や進展に寄与するかという点に着目し、研究を進めております。
現在生活しているバーゼルの街は、RocheやNovartisなど世界的な製薬企業の本社が所在し、Biozentrum以外にも多数の研究機関が立地する研究都市です。また、フランス・ドイツの国境に接する地理的特性もあり、非常に国際色豊かな街で、研究者にとって非常に恵まれた環境にあると感じています。
実際に暮らしてみても、外国人に対して非常に寛容で、特に子育て世代に対して親切な街です。ドイツ語圏ではありますが、日常生活の多くの場面で英語が通じるため、生活面での大きな不便はありません。物価は確かに高いものの、トラムやバスで簡単にフランスやドイツにアクセスできるため、週末に日用品や食料品を買いだめすることで、生活費を大きく抑えることも可能です。
気候面に関しても、留学前は「スイス=厳しい寒さ」という印象を持っていましたが、バーゼル市内ではほとんど雪が降らず、住宅・研究所・交通機関すべてが暖かく保たれており、むしろ熊本の冬よりも快適に感じるほどです。また、4月から10月中旬頃までは日照時間も長く、非常に過ごしやすい環境です。
さらに、1時間ほど移動すればスイスらしい美しい自然が広がっており、こちらは少し遠いですが写真のようなツェルマットの絶景を楽しむことも可能です。地理的にもヨーロッパの中心に位置し、バーゼル空港からはヨーロッパ各都市やアフリカ方面への格安航空便も充実しており、研究の合間に他都市を訪れる機会にも恵まれています。

私の助成金同期の多くはアメリカに留学されており、過去の受給者においてもアメリカ留学が主流である印象を受けます。しかしながら、スイスは政治的に安定しており、研究インフラも極めて整備されているため、スイス、特にバーゼルへの留学は非常に有意義な選択肢であると実感しております。
以上、簡単ではございますが、私の海外留学の中間報告とさせていただきます。
最後になりましたが、今回の貴重な留学機会を与えてくださった鈴木万平糖尿病財団の皆様、また留学にご理解・ご協力をいただきました熊本大学 代謝内科学講座ならびに発生医学研究所 細胞医学分野の先生方に、心より感謝申し上げます。