海外留学助成 中間近況報告
2023年度留学助成(2024年 中間近況報告)
【留学先研究機関】
Department of Medicine, School of Medicine, University of Washington
現在、私はアメリカのワシントン州シアトルにあるワシントン大学のPaul Crane 教授が主宰するCenter for Psychometric Analyses in Aging and Neurodegeneration (CPAAN) へ留学しています。留学を開始してから早くも半年が経ち、この度、近況報告をさせていただきます。
CPAANを主宰するPaul Crane教授は、老化や認知機能の変化に関連する要因を明らかにするために始まり、30年以上にわたって続く前向き観察研究であるThe Adult Changes in Thought Study(ACT study)を主導しています。ACT studyでは、参加者は、2年毎に認知機能を含む幅広い評価を受け、必要に応じて頭部画像検査や血液検査が行われ、認知症の発症の判定も行われます。さらに、参加者の25–30%が脳剖検に同意しており、脳病理の検討が可能な貴重なコホート研究です。Crane教授の研究室では、ACT study のデータを利用して、病理学的所見を含めた様々な認知症の危険因子についての研究が行われ、その成果として血糖と認知症の発症の関連についての論文 (Crane PK, et al. N Engl J Med. 2013) を含む多数の論文が発表されています。私も、ACT studyのデータを活用し、糖尿病と認知症の関連を深く研究するために、この研究室を選択しました。
ビザ申請に関わる調整に時間を要したため、留学を開始したのは当初の予定より数か月遅れて、2023年10月に家族を日本に残して渡米しました。渡米後は、家具も揃っておらず、寝袋での就寝が日常でした。シアトルの冬は日照時間が短いため、朝も夕方も暗い時間帯に外出する生活が続き、最初の1ヵ月は厳しいものでした。また、私が渡米したタイミングは、研究室の引っ越しと重なり、忙しさの中でのスタートでしたが、引っ越し後の研究室のパーティーでは、同僚との交流を楽しむことができました (写真1)。研究面では、英語に苦戦しながらも、研究を実施するためのトレーニングを受講・修了し、自身のプロジェクトに取り組み始めていました。しかしながら、家族の体調不良のため11月下旬に一時帰国することになり、留学中止も覚悟しましたが、幸いにも大事に至らず2024年12月末に家族全員で再度渡米することができました (写真2)。この期間中、鈴木万平糖尿病財団の皆様やCPAANの皆様からは、心温まるサポートをいただきましたことに、深く感謝申し上げます。
再度渡米後は、Diabetes and Aging Brainと題したJournal Clubを定期的に開催し、自身の研究のプロポーザルの発表や関連する研究の論文抄読、著名な研究者を招待して糖尿病と認知症関連の講演を行っています。英語でのディスカッションは苦戦しつつも、専門家からの貴重なフィードバックを受けながら、プロジェクトを進めることができています。また、国立長寿医療研究センターで実施した研究データの解析や論文執筆についても、ご指導いただき、新たな視点を得ると同時に、研究の基本が各国共通であり、基本に忠実であることの重要性を改めて感じています。
渡米後は、日本での生活に比べて家族との時間をより多く過ごすことができています。異文化での生活やアメリカの家賃、保育料や物価の高さに加えて、過去30年ない歴史的な円安に日々頭を抱えていますが、家族にとっても意義深い留学生活を送ることができるよう、休みの日にはアメリカでの様々なイベントに参加し、楽しむことを心がけています (写真3,4)。そして、家族全員が健康で日本に帰国できるよう、引き続き精進してまいります。
最後になりましたが、鈴木万平糖尿病財団の厚いご支援に感謝申し上げます。また、留学に送り出してくださった国立長寿医療研究センター予防科学研究部の皆様や、快く受け入れてくださったCPAANの皆様に、この場を借りて心より御礼申し上げます。