海外留学助成 中間近況報告
2023年度留学助成(2024年 中間近況報告)
【留学先研究機関】
Brown University, Department of Molecular Biology, Cell Biology, and Biochemistry
私は2023年4月より、Brown University, Department of Molecular Biology, Cell Biology, and Biochemistry (MCB)に留学しています。渡米から約一年が経過し、ようやくこちらの環境にも慣れ、毎日充実した研究生活を送っています。
Brown Universityのあるロードアイランド州プロビデンスは、ボストンから南に車で一時間ほどの位置にあります。市街地の中心にプロビデンス川が流れ、その周辺にBrown University やRhode Island School of Designなどの教育施設が点在する学園都市で、ニューイングランド地方ではボストンに次ぐ規模の都市らしいのですが、どこか田舎っぽい落ち着いた雰囲気があります。大学関係者が多く住んでいることから治安はとても良く、身の危険を感じたことはこれまで一度もありません。緯度が高く、冬は寒いですが、夏は涼しく日も長いので過ごしやすいです。夏場の週末には、プロビデンス川を数キロにわたって松明でライトアップするWater Fireという名物イベントがあり、多くの観光客でにぎわいます。また郊外のニューポートまで足を延ばせば、グレート・ギャツビーの世界を思わせる19世紀の豪邸や、国際テニス殿堂にポロ競技場、また無数の白いボートが海に浮かぶ光景が見られ、アメリカ富裕層の夏休みを垣間見ることが出来ます。
留学先の研究主宰者(PI)であるMukesh K. Jain先生は、心血管疾患や全身のエネルギー代謝制御においてNF-κB、Krüppel-like factor等の転写因子が果たす役割について研究をしてきたPhysician-scientistです。クリーブランドにあるCase Western Reserve Universityの循環器科の教授でしたが、2022年に医学部長としてBrown Universityに異動してきました。ラボはまだ立ち上げの段階であり、メンバーは私を含めて5人しかいません。人数が少ないことで苦労することもありますが、メンバー同士のまとまりが良く、お互い協力し合いながら研究に取り組んでいます。私はこちらで、SGLT2阻害薬がHeart Failure with preserved Ejection Fraction(HFpEF)を改善させる機序の解明をテーマに研究を行っています。日本で当たり前に出来ていた基本実験がうまくいかなかったり、慣れないマウスの心エコーに悪戦苦闘したりしていますが、Co-PIのXudong Liao先生の指導もあり少しずつデータが出るようになってきました。MCBが週1回程度開催する勉強会も内容が充実しており、Spatial Transcriptome解析の講義など実践的なものが多く助かっています。特別講演として、CRISPR-Cas9開発者でノーベル賞受賞者のJennifer Doudna先生のお話を聞く機会もありました。Jain先生は医学部長として多忙な中でも、研究に対する熱意は全く衰えておらず、週1回のミーティングではいつも豊富な知識を背景にした的確なコメントをいただけます。ネガティブデータも含め全てのデータを自分の目で確認し、それを細かいところまで記憶しているのには驚きました。また、現在の研究が一連の研究の中でどのような位置づけにあるのか、俯瞰的な視点で見ることを度々強調されていることも印象的でした。長年一つの分子にこだわって研究する中で、それが生体の中でどのような意義を持つものなのか、数ある研究を通して全体像を描くことを強く意識されているように感じます。それだけにデータの一貫性・再現性にはとても厳しいです。私が日本で所属する研究室も、糖尿病合併症における低分子量G蛋白RhoとそのエフェクターであるRho-kinaseに注目した研究を続けており、Jain先生の研究に対する考え方や姿勢は大変勉強になっています。
留学前はアメリカでの生活に強い不安を抱いていましたが、いざ来てみると大きな問題なく暮らせています。日本食の材料はアジア食材の宅配サービスで手に入りますし、近所のスーパーにも豆腐や餃子、炊き込みご飯などが売っています。今春には、新たに日本食スーパーやユニクロがプロビデンスに開業予定です。Brown Universityの日本人研究者の数は恐らく20人程度しかいないのではないかと思いますが、幸運なことに渡米後すぐに声を掛けていただき、数人のグループで定期的に食事をして様々な相談に乗ってもらっています。それぞれ年齢や専門分野は異なりますが、高いモチベーションを持ってアメリカで研究している日本人研究者の方々と交流することは、大変良い刺激になっています。最大の懸念であった家族の生活についても、こちらのママ友の方々に助けていただきました。定期的に本の読み聞かせやゲーム大会などを開催している日本人コミュニティーがあり、留学開始後に生まれた娘の公園デビューも出来ました。妻は地元のボランティアの女性がやっている英会話教室(兼ママ友会)に毎週参加し、こちらでの生活の不安も軽減されたようです。二年目はより活動範囲を広げて、日本人以外の友人も積極的に作りたいと考えています。
以上、簡単ではありますが留学の中間報告をさせていただきました。最後になりますが、現在の異常な円安と物価高の中、安心して留学生活を送れるようご支援いただいている鈴木万平糖尿病財団の皆様、そして快く送り出していただいた西村理明教授をはじめとする東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科の皆様にこの場を借りて深く御礼申し上げます。