海外留学助成 中間近況報告

Shin Jihoon 先生
大阪大学 内分泌代謝内科学 糖尿病病態医療学寄附講座
2023年度留学助成(2024年 中間近況報告)

【留学先研究機関】
Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School

私は、2023年8月からハーバード大学のBeth Israel Deaconess Medical Center(BIDMC)にあるKajimura(梶村)Labで研究をしているシン・ジフンです。このたび、貴財団のご支援をいただき、米国での留学の機会を得ることができました。渡米して8ヶ月が経過し、研究と生活に少し慣れてきたところで、ここに中間報告をさせていただきます。

私が所属するBIDMC研究所は、ボストンのLongwood Medical Areaに位置しており、Boston Children's HospitalやDana-Farber Cancer Institute、Brigham and Women's Hospital、Joslin Diabetes Center、Merck、Wyss Instituteなどの医療機関や研究所が密集しています。ここでは、病院と研究所、製薬企業が緊密なネットワークを形成し、最先端の基礎研究や臨床研究、トランスレーショナル研究が活発に行われています。特に、内分泌学や糖尿病、代謝研究の分野では、世界的に著名な研究者たちが集まっており、定期的なディスカッションやセミナーが行われ、最新の研究知識や技術が共有されています。

この地域の研究環境は非常に開放的で、他の研究室との交流が容易です。物理的な壁が少ないため、研究者同士が自然に交流し、試薬や機材を借りたり、共同研究が即座に立ち上がることも多いです。また、研究者たちは個々のスケジュールに合わせて柔軟に働くことができ、朝型の人もいれば夜型の人もいます。私は、子供たちを朝7時半に学校へ送り、8時前にラボに到着します。そして、夜は5時から7時の間には帰宅し、家族と過ごす時間を大切にしています。研究のスピード感は速く、一見自由に見えるかもしれませんが、効率的な時間の使い方が求められます。

Kajimura先生は、脂肪細胞の熱産生と代謝研究分野で世界的に著名な研究者であり、2022年にはHHMIの研究者に選ばれました。最初の面談では、「Do not connect the dots; find a new dot.」(既存の点をつなげるのではなく、新しい点を見つけなさい)という言葉をいただき、新しい発見への挑戦を促されました。Kajimura先生は、従来のUCP1による熱産生に代わるUCP1非依存的なFutile calcium cyclingという新しい機序を提唱し、研究の新たな方向性を示しています。私は、UCP1非依存的な熱産生とエネルギー代謝を研究テーマとして与えられ、ミトコンドリアの機能解析や熱測定法を学びながら、新たな因子や経路を見つけることを目指しています。研究室には大学院生2人とポスドク13人が在籍しており、それぞれが独自の研究テーマを持っています。同僚たちの研究が、CellやCell Metabolismなどの著名なジャーナルに掲載されており、その質の高さに驚かされます。また、何か分からないことがあれば、すぐに質問できる環境は非常にありがたいです。

ボストンは、研究環境だけでなく、生活面でも魅力的な街です。まず、治安が良く、街の人々は親切です。公共交通機関も充実しており、車がなくても街のあちこちへ容易にアクセスできます。また、ボストンには公立小学校が多く、教育環境も整っているので、家族連れにも適しています。特に、夏は公園や緑地が豊かで、秋には紅葉が美しく、街全体が鮮やかな色合いに包まれます。博物館や美術館、コンサートホールなど、文化施設も充実しており、研究の合間に楽しむことができます。もちろん、家賃と物価の高さはボストンのデメリットですが、研究と生活のバランスを取るには、全体的に良い環境です。研究を志す若い方々には、ぜひボストンでの留学を前向きに検討していただきたいです。

 Harvard Medical Schoolの正門(左)と広場(右)の写真
Harvard Medical Schoolの正門(左)と広場(右)の写真