海外留学助成 中間近況報告

藤本 真徳 先生
千葉大学医学部附属病院 糖尿病代謝内分泌内科・臨床試験部
2023年度留学助成(2023年 中間近況報告)

【留学先研究機関】
Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School

私はアメリカのボストンにある、Harvard大学ベスイスラエルディコネスメディカルセンター(BIDMC) Shingo Kajimura先生のラボに留学しています。この度は貴財団の海外留学助成のおかげさまで順調に留学生活を送れていること、改めて御礼申し上げます。ご審査くださった先生方をはじめとする関係者の皆様方に深く御礼申し上げます。

 BIDMC
BIDMC
 BIDMCのエントランス
BIDMCのエントランス

Kajimura先生は熱産生やミトコンドリア代謝の分野でたくさん一流紙に報告され、まだ40歳台ですがRO1、DP1、HHMIといった多くの大型予算を獲得されている方です。渡航前から、研究テーマについて論文を調べ、public dataで分かることは極力調べ、Kajimura先生と研究テーマの方向性についてmeetingを重ねてきました。その際に「これまで我々が報告してきた褐色脂肪を超えるような発見を」、「fieldを動かすような研究を」と高い目標を口にされ、それに関連してお話されたのはdeletion studyという考え方でした。その研究を我々がしなかったら、その分野がどのくらい遅れるか考え、影響力が小さいものは避け、より自分達がすべきことを再考する、という考え方です。テーマとして何を選ぶか、また実験として何をして何をしないか、は日本・アメリカ問わず研究をするうえで大事なポイントだと思うのですが、一つの軸としてとても参考になる考え方だと感じました。

週に1度のミーティングでは具体的な実験データの相談に加え、長期的にみてどの実験系が本質的に重要か、あるいは研究の全体を通してどの実験がtime-limitingでありいま優先して頑張るべきか、についても指摘をいただきます。PIの先生にはかなり細かく実験を指示するスタイル、逆に完全に放任するスタイルなど様々な方がいると聞きます。先生のスタイルが自分にあうか、は留学を考えるうえで一つ心配な点でしたが、Kajimura先生のコーチングスタイルは私に良いように感じています。

Kajimuraラボにきて良かったと思っていることの一つは、ポスドクがみな優秀で熱心ということです。彼らに助けられ、私もなんとか慣れない実験系もすすめていくことができています。また、ラボメンバーが大きな発見をするんだ!と本気で思っていることが、守りに入らずにチャレンジ精神を維持するうえで大きな力になっていて、ラボメンバーにも感謝しています。

 ラボの集合写真
ラボの集合写真

研究室の建物の近所にジョスリン糖尿病研究所、ダナファーバー癌研究所、ボストン小児病院、ブリガムウィメンズ病院といった教育研究施設が密集しています。最先端の研究が次々と近くで発表され、施設内の研究発表でもNatureやCellといった一流紙に発表された内容も多くとても刺激になります。また、このエリアで頑張っている日本人ポスドクはたくさんいて、その多くが成果をあげてゆく姿もまた良い刺激になります。渡航する直前に知ったのですが、准教授としてラボを運営されている大学の先輩がいらっしゃり、実際に渡航する前には想像できなかったくらい、今はこちらの研究を身近に感じられています。

ボストンは、冬は寒いですが、夏は緑にあふれ、秋は紅葉が綺麗です。また、アメリカのなかでは治安が良く、街の人々は概して親切で感じがよく、また公立小学校も充実していて、家賃と物価が非常に高いこと以外は素晴らしい都市だと感じています。私はまだ家族が合流していませんが、現地小学校の子供たちはバイオリンの練習に取り組んでいるようで、息子も合流したら音楽に親しむ姿が見られそうで今から楽しみです。

私の留学の目標の一つは、データサイエンスを学ぶことです。これは日本で一細胞解析を初めて、いろんな情報が得られることが面白く、さらに発展させたいと思ったことや、遺伝学や充実するヒトデータベースの応用、機械学習の実験生物学への応用などに興味があったことが理由です。Kajimura先生は、Dr. Evan D. Rosen, Dr. Linus TsaiなどのInformatics寄りの代謝領域の研究者とも連携しており、私もこの輪のなかでBioinformaticianと相談しながらできることを増やす努力をしています。高度なcodeや深い数理的背景の理解までは私の頭ではなかなか難しそうなのですが、Bioinformaticianと意思疎通できるリテラシーをもつこと、実験生物学に有効なinformaticsのアプローチにアンテナをはることは常に意識したいと思います。解析に際しては、Harvard/MITが共同運営するBroad Instituteにも所属して、同施設のserverを使っています。余談ですが、Broad Instituteの建物内は独創的なデザインかつどこもピカピカで感動しました。テレビでみるGoogle社内の雰囲気に似ていて、なんだかいいアイデアが沸いてきそうです。

 Broad Institute
Broad Institute

Kajimura先生は魚釣りがお好きで、夏に船で沖釣りをするというイベントに皆を連れて行ってくださいました。私は川釣りや陸からの海釣りはしたことがありましたが、沖釣りは初めてでした。今までの人生で一番大きい魚を釣り上げることができ、これも貴重な経験となりました。

 魚釣りイベントの光景
魚釣りイベントの光景

末筆ではございますが、本留学の実現に多大なるご支援をくださった鈴木万平糖尿病財団様、千葉大学 横手幸太郎先生、田中知明先生、花岡英紀先生、糖尿病代謝内分泌内科・分子病態解析学・臨床試験部の先生方をはじめとする皆様方、留学にあたり御世話になりました全ての方々にこの場を借りて深くお礼申し上げます。そして、日本で働きながら子供二人を育ててくれている妻、いつも電話で幸せをくれる子供たちに心から感謝いたします。研究を志す若い先生方には、是非留学を前向きに考えていただけたら幸いです。