海外留学助成 中間近況報告

岩﨑 可南子 先生
京都大学 糖尿病・内分泌・栄養内科学教室
2022年度留学助成(2023年 中間近況報告)

【留学先研究機関】
Joslin Diabetes Center, Harvard Medical School

この度は貴財団の海外留学助成のお陰で留学2年目を迎える事ができました事、心より御礼申し上げます。審査して下さいました先生方をはじめ関係者の皆々様にこの場をお借りして厚く御礼申し上げます。またコロナ禍での留学・渡米に際し適切なご助言と激励のお言葉を賜りました多くの方々に心より感謝申し上げます。

Jolsin Diabetes CenterのCristina Aguayo-Mazzucato先生の本研究室は糖尿病と細胞老化について研究を行っており、その中でも私は移植膵島における細胞老化とその役割について研究を行っています。正常細胞が重度のDNA損傷を受けると、細胞はアポトーシスをおこすか細胞増殖停止状態に陥ります。老化細胞は代謝活動を維持したまま不可逆的に増殖を停止する状態で、加齢、肥満、放射線などの外的ストレスや、DNA障害などにより誘導され、老化関連分泌表現型:Senescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)と呼ばれる炎症性タンパク質などを分泌し周囲の正常細胞を老化させます。このSASPは2型糖尿病に代表される老化関連疾患の発症に関与しており、2型糖尿病で起こる慢性的なインスリン暴露は、肝細胞、膵β細胞、脂肪組織で老化を引き起こすことが報告されています。
最近、本研究室より老化膵β細胞は2型糖尿病におけるインスリン分泌の低下に重要であること(Cell Metab. 2019)、老化膵β細胞でIgf-1受容体(Igf1r)発現が増加すること(Cell Metab. 2017)が報告されています。そこで私は、IGF1/IGF1Rシグナルが減少した2つの独立したマウスモデル(Ames Dwarfマウスと誘導性膵β細胞特異的IGF1Rノックダウンマウス)を用いてIgf1r発現増加が老化に直接寄与することを報告しました(Decreased IGF1R Attenuates Senescence and Improves Function in Pancreatic β-cells. Front Endocrinol. 2023, in press)。また2型糖尿病における老化細胞の制御に関する総説を執筆し(Regulation of Cellular Senescence in Type 2 Diabetes Mellitus: From Mechanisms to Clinical Applications. Diabetes Metab J. 2023)、現在進行中の研究課題である移植膵島における細胞老化の役割に関しては、纏まった実験が完了次第投稿予定です。これらの研究はCristina先生とラボのメンバーをはじめ、多くの方々のご協力・ご指導と信頼する家族のサポートがあったからこそ成し遂げられたと思っております。

コロナ感染症最中の留学であったため、見聞した事前情報とは異なることが多く、刻一刻と更新される登校・登園基準に振り回され戸惑うことも多々ありましたが、収束宣言後は次第に街も活気づき、私は子供達の絵画教室の同伴と称し、ほぼ毎週末ボストン美術館(MFA:Museum of Fine Arts Boston)で鑑賞しております。
1年後には更なる報告ができるよう、家族皆健康で充実した日々を過ごして参りたいと思います。以上簡単ではございますが中間報告とさせて頂きます。

運よく遭遇した研究所の前を歩くグースの親子連れ。MAKE WAY FOR DUCKLINGSという児童書に描かれている挿絵と同じ光景。
運よく遭遇した研究所の前を歩くグースの親子連れ。
MAKE WAY FOR DUCKLINGSという児童書に描かれている挿絵と同じ光景。