海外留学助成 中間近況報告

加藤 大祐 先生
三重大学医学部附属病院 病理部
2022年度留学助成(2023年 中間近況報告)

【留学先研究機関】
Beth Israel Deaconess Medical Center, Harvard Medical School

私は2022年4月よりハーバード大学医学部Beth Israel Deaconess Medical CenterのKajimura Labで研究を始めており、1年が経過したので近況を報告します。

留学先のPIであるKajimura博士は脂肪代謝を専門とし、肥満や糖尿病の治療標的として期待されている褐色脂肪やベージュ脂肪細胞に関連したエネルギーバランスや熱代謝に関する研究を行っています。40代ながら医学部教授であり、また2022年からHHMI (ハワード・ヒューズ医学研究所)の研究者に選ばれている日本を代表する研究者です。現在は脂肪代謝だけでなく、ミトコンドリア代謝にも注目し、自分たちにしかできない事、自分たちがやらなければ分野の発展が遅れてしまう領域にフォーカスして研究しています。そのため、各々のポスドクに与えられるプロジェクトはどうしても難易度が高くなりやすく(テーマを探す所からスタートする場合も)、答えが分からないのは当たり前(時には答えがあるのかも分からない)、どうやって目的にアプローチするかも分からないという所から研究が始まります。非常にチャレンジングですが、ラボのポスドク皆が各々、世界で最初の発見をするんだという高いモチベーションを持ってテーマに取り組んでいるので、研究を本気でやりたい人にとっては最高の環境だと思います!

ラボ周辺の風景。奥にある建物がDana-Farber Cancer Institute
ラボ周辺の風景。奥にある建物がDana-Farber Cancer Institute

Kajimura博士からの研究指導はとても刺激的です。たくさん実験をしたからといって褒められることはなく、常に必要最小限でクリティカルな実験をするように、仮説を支持する実験ではなく、仮説を否定するための実験を行うように指導されます。週1度の1:1のミーティングで実験データを提示し、得られたデータを解釈しながら、研究方針をたてます。当たり前ですが、数週間先(時には数か月)の実験を考え、無駄なく遅延なく実験を準備していきます。日本にいると様々な業務があり、これだけ研究に没頭することはできませんが、留学ではほぼ100%の時間を純粋に研究に当てることができるのは自分にとって大変嬉しいことです。また周りのポスドクの研究成果がTOP誌に掲載されるまでの過程を現場で体験できるので、どのようにして研究が始まり、どういったストラテジーで研究を進め、どのようなポイントに注目し、最終的にどのようなデータを追加して1つの論文が出来上がるのか、こういった一連の流れを体験することができました。その中で自分がひとつ感じたのはアメリカの大きなラボであろうと日本の小さなラボであっても、研究の根本は一緒で、現象(フェノタイプ)を見つけ、そのメカニズムを明らかにする、これを肝に命じて研究することが大事だということです。

ラボがあるCenter for Life Science Boston
ラボがあるCenter for Life Science Boston

しかし厳しい指導があるからといって簡単にデータが出ないのが研究の世界、留学してからの半年間はこれまでの人生で一番実験をした半年間でしたが、何もデータが出ず苦しい時間が続きました。けれど周りの優秀なポスドク達に助けられ、1年過ぎる前に何とか1つデータを取ることができ、少しほっとしてこの近況報告を書いています。今のラボにいるポスドクの人たちはみんなとても優秀で、それぞれ異なるバックグラウンドを持っています。それゆえに、自分にとっては新しいテクニックでも、ラボ内では誰かが既に経験しており、簡単に技術を盗むことができます。例えば Mito-tag? Isotope labelled metabolic-tracing? 何それ?という状態からスタートしたとしても、1-2週間後には1人でできるようになります。このスピード感は以前の環境では中々味わえるものではないと思います。

ハーバードに留学するメリットの1つは、他のラボにいるたくさんの優秀なポスドクに会えること、そして彼らの研究内容を生で聞くチャンスがあることです。新しいオルガネラの発見、マンモス検体を使用したゲノム解析などTOP誌に掲載される前のデータを生の講演で聞くことができ、彼らと議論することができます。また週末には様々なラボのポスドクや有名なPIと一緒にお酒を飲む機会もあり、最近ではDavid A. Sinclairも参加していました。こういったチャンスを頻繁に得られる環境は他では中々ないと思います。

Kajimura博士の自宅でラボメン達とパーティー
Kajimura博士の自宅でラボメン達とパーティー

ボストンはアメリカの東海岸に位置し、マサチューセッツ工科大学(MIT)やハーバード大学をはじめ有名な大学が集まる学園都市で、街の中はチャールズ川が流れています。ボストンの人口は65万人ですが、3人に1人が大学生という環境であり街中は学生であふれ、交通手段もバスと地下鉄が豊富にあり、車がなくても不自由なく移動ができます。日本でいうと何となく京都に似ている感じを受けます。このような背景もあり治安はとても良く、真夜中に歩いて家へ帰っても、危険を感じることはありません。アメリカの中でもボストンであればずっと住んでもいいなと思える街です!

ハロウィンシーズンのセーラム
ハロウィンシーズンのセーラム

ボストンはスポーツも盛んで、野球やバスケットボールなどが特に人気です。所属機関の福利厚生で、なんと5ドルでボストン・レッドソックスの野球観戦を行うことができます。幸運なことに、私の初めてのMLB観戦はレッドソックス対エンゼルス戦、先発投手は大谷選手でした。またボストンにはセルティックスというバスケットボールチームもあり、試合日には街中あちこちで緑色のユニフォームを着た人に遭遇します。私はまだバスケットボール観戦をしていませんが、試合観戦をした人はみんなとても楽しかったというので、今年はどこかで行きたいと思っています。

Fenway Parkでの大谷投手
Fenway Parkでの大谷投手

ボストンの生活事情ですが、シェアハウスを選択しない場合の家賃は大体2000-3000ドル前後です。また外食に関しては、ちょっとした軽食でもチップを入れると1人30-40ドルぐらい、夜だと60-80ドルくらいになります(高級店ではない!)。先日、お昼に食べた普通の海鮮丼はチップ込みで40ドルくらいだったので、やっぱり日本は良いなと再確認しました。ちなみにボストンは海鮮が有名で、クラムチャウダーという魚介のスープは美味しいので、ボストンにお立ちよりの際には是非お試しください。

今回の留学にあたり、私を助成先に選んで頂いた鈴木万平糖尿病財団様に、この場を借りて厚く御礼申し上げます。また私の中間報告が、研究を志す若い先生方のお役に立つことが少しでもあれば幸いです。