海外留学助成 中間近況報告

広浜 大五郎 先生
帝京大学 医学部内科学講座
2021年度留学助成(2022年 中間近況報告)

【留学先研究機関】
Perelman School of Medicine、University of Pennsylvania

私は2021年9月からペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)腎臓内科Katalin Susztak教授ラボに留学しています。渡米後1年ほどが経ちましたが、恵まれた環境で充実した研究生活を送ることができています。

東海岸第二の都市フィラデルフィアは人口約160 万人で、地理的にはニューヨークとワシントンDCの間に位置しています。1682年にウィリアム・ペンが同志とアメリカに渡来し,この地に居住区を建設したのが市の起源と言われています。フィラデルフィアはアメリカ合衆国の独立宣言(1776年)及び連邦憲法(1787年)誕生の地であり、1790年からの10年間は同国の首都でもあった伝統のある街です。人口比率は白人と黒人がそれぞれ40%,アジア人7%程度と,東海岸としては黒人の比率が多く、民族多様性を肌で感じることのできる都市です.一般的にフィラデルフィアの治安はあまり良いとは言えないようですが、治安の良い場所、悪い場所がはっきりと分かれており、治安の悪い場所に近づかなければ概ね安全です。私は妻と3人の子供(7歳、5歳、3歳)と共に自然豊かな郊外にアパートを借りて生活しており、電車で45分ほどかけて通勤しています。居住地域周辺は子連れの日本人家族も複数居住しておられる治安の良いエリアで、身の危険を感じたことは一度もありません。平日は研究に集中し、休日は基本的に家族と過ごすという生活を送っています。

創設者の一人であるベンジャミン・フランクリン像の前にて。
創設者の一人であるベンジャミン・フランクリン像の前にて。
メインキャンパスの芝生広場にあり大学の象徴ともなっている。

ペンシルバニア大学はアイビーリーグの一つで,1765年に全米で最初に医学部を設置した大学でもあります.全米大学ランキングやNIH研究資金等はトップ10の常連で非常に活発な研究活動が展開されているのはもちろんのこと、私の知る限り同大学に誇りを持ちながら研究に励んでいる研究者が多い印象を持っています。

Principle Investigator(PI)であるSusztak先生は糖尿病性腎臓病をはじめとした慢性腎臓病研究のエキスパートで、Genetics、Epigenetics両方の視点を基盤とした動物実験に豊富なバイオバンクサンプルを組み合わせるだけでなく、最新のバイオインフォマティクス手法も取り入れて研究を進めています。特に腎臓の1細胞解析の領域で世界をリードするphysician scientistであり、多数の素晴らしい研究成果を発表されています。Susztak研究室には世界中からモチベーションの高い約20名の研究者が集まってきており、切磋琢磨できる環境が整っています。

私自身は、Susztak先生が保有するヒトバイオバンクの腎臓サンプルを用い、プロテオミクス解析、1細胞トランスクリプトミクス解析を通して糖尿病性腎臓病の進展機序の一端を解明すべく日々研究に励んでいます。私は元々バイオインフォマティクスの知識や経験はほぼ皆無でしたが、Susztak先生からのアドバイスもあり、研究に関連する解析を自分で行えるようにすべく必死に取り組んでいます。率直に言ってバイオインフォマティクスの習得は自分にとってハードルの高いことでしたが、肝を据えて諦めずに取り組むなかに解析の幅も増え、少しずつ自分自身の成長も実感することができるようになりました。バイオインフォマティクスの分野では新しい解析手法が日々確立されてきており、留学中にさらにスキルアップするべく、チャレンジを続けていきたいと考えています。

私がSusztak先生のラボへと留学することになったきっかけは、腎臓の1細胞解析を含めたバイオインフォマティクス解析の手法に興味を持ったことです。当時所属していた東京大学先端科学技術研究センターの上司であった藤田敏郎教授からSusztak先生にコンタクトをとって頂き、2019年のアメリカ腎臓学会の際に直接ご挨拶する機会を得ることができました。その際、自分自身がこれまで取り組んできた研究内容を懸命にお伝えすると、幸い熱意が伝わったのかポスドクとして受け入れることを約束して下さいました。

その後、世界的に新型コロナウイルス感染が猛威を奮った影響で、留学時期を決定するプロセスが容易ではありませんでしたが、Susztak先生と連絡を取り合いながらワクチンが普及し始めたタイミングで渡米に向けて具体的に動き出しました。実際にはペンシルベニア大学からのDS-2019発行が大幅に遅れ、日本のアメリカ大使館でのVISA面接予約がなかなか取得できないなど、コロナ禍ならではの困難にいくつも遭遇しました。その都度、留学して研究を発展させたいという強い気持ちを糧にして、粘り強く一つ一つの事案に対応していきました。

このような状況下で家族を連れての渡米でしたので、渡米当初は生活面での苦労も大きかったですが、家族と協力しながらなんとか乗り切ることができました。現在、米国は明確にwithコロナに舵をとっており、コロナ流行前とほぼ同様の社会生活が営まれており、街中は活気に溢れています。ペンシルベニア大学内や公共交通機関ではマスク着用が求められていますが、それ以外の場所では例え屋内であってもマスク着用者の方が少なくなっており、子供たちの学校でもマスク着用が義務でなくなりました。私達家族も米国での生活にだいぶ慣れ、子供たちは現地の小学校、幼稚園(デイケア)に楽しそうに通うことができています。

末筆ではございますが、留学の実現にあたってサポート下さった鈴木万平糖尿病財団、東京大学先端科学技術研究センターの藤田敏郎教授、柴田茂教授をはじめとする帝京大学医学部内科学講座腎臓内科の皆様、留学にあたってお世話になりました全ての方々にこの場を借りて深く御礼申し上げます。そして何より、異国の地で生活を共にし、常に全力でサポートしてくれている妻と子供達に、心から感謝します。また、将来留学を志す皆様が充実した留学生活を送れることをお祈り申し上げます。

Penn Medicine Complex
写真はPenn Medicine Complexの一角の風景で、勤務先のSusztak研究室は右側に見えるSmilow Center for Translational Research内にあります。